ました。ここには小房《しょうぼう》が、いくつか並んでいる。こっちへ来てください。ここへ入りましょう。はいったら入口のカーテンを引きます。さあ、椅子に腰をおかけなさい。そして、両手でこの大きな円卓子《まるテーブル》を、しっかりと抑《おさ》えていてください。しっかりつかまっていないと、あとで舌を噛《か》んだり、ひっくりかえって腰をうったりしますよ。はい、今うごきます。秘密の釦《ボタン》を今押しましたから。そら床もろとも、下《お》りだしたでしょう。しっかり卓子につかまっていなさいといったのは、ここなんだ。そうです、この小室《しょうしつ》全体が、エレベーター仕掛《じかけ》になっているのです。床も天井も壁も、一緒に落ちていくのです。もう今はたいへんなスピードで落ちていますよ。なにしろ、これがエレベーターなら、地階三十階ぐらいに相当する下まで下りるのです。なにしろ、地面から測って、二百メートルもあるそうですからね。
爆撃《ばくげき》をさけるためですかって。もちろんそれもありましょうが、もう一つの理由は、金博士は宇宙線を極度《きょくど》に避《さ》けて生活していられるのです。あの宇宙線なるものは、二六時中、どんな人間の身体でも、刺《さ》し貫《つらぬ》いているので……」
話の途中に、エレベーターは停《とま》った。
私は客人の手をとって、エレベーターを出ると、しばらくは真の闇《やみ》の中の通路を、手さぐりで歩いていった。
二百メートルばかり歩いたところで、通路は行き停りとなる。そこで私は、今切り取ったばかりのような土の壁を、ととんとんと叩いた。すると、ぎーいと音がして、私たちは眩《まぶ》しい光の中に、放り出された。
そういう段取《だんどり》になれば、私は間違《まちがい》なく、闇の迷路《めいろ》をうまく選《よ》り通ってきたことになるのである。下手をやれば、いつまでたっても、この光の壁にぶつからないで、しまいには、進むことも戻ることもならず、腹が減って、頭がふらふらになる。
私は、はげしい目まいをおさえて、しばらく強い光の中に、うつ伏《ぶ》していた。土竜《もぐら》ならずとも、この光線浴《こうせんよく》には参る。これも博士の警戒手段の一つである。
私は、ようやく光になれて、顔をあげることが出来た。
「やあ金博士。とつぜんでしたが、ロッセ氏を案内して、お邪魔《じゃま》に参《まい》
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