った身が、今はあの兇行の連続にもかかわらず、憎悪はむしろ帯刀一家に移って、彼れ自身の上には夥《おびただ》しい同情と畏敬とが集っているのを知って快心の笑みを洩らしていた。そこで彼は、善心に立ちかえるべきだったかも知れないが、悪魔に売った魂は、そう簡単に取りかえせるものではなかった。
「おお、人が斬りたい。……」
 と、日暮れになると、彼は高尾山中の岩窟からノッソリ姿を現わし、魘《うな》されでもしているかのような口調で叫ぶのだった。
「おうい、くろがね天狗よ、洞から出て参れ」
 そういって半之丞は右手をあげて額の前で怪しく振った。すると彼は一種の自己催眠に陥り、異常なる精神集中状態に入るのだった。
「くろがね天狗、出てこい!」
 そういって命令すると、精神が電波のように空間を走って、洞の中に安置されている所謂《いわゆる》くろがね天狗の手足を動かすのだった。脳の働きは一種の人造電波を起こして空間を飛び、そして人造電波の受信機に外ならぬ機械人間くろがね天狗を自由自在に操縦するのであった。これが半之丞が五ヶ年の山籠りを懸けて作り上げた秘作機械だった。――南蛮鉄の胴体に、黒装束に黒頭巾を蔽《おお》
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