によって買われた無上の尊いものである」
操縦者の乗っていないロケットは、ジャイロコンパスの力をたよりに、だんだんと火星に近づいていった。それは古い物語のなかに現われてくる幽霊船のようであった。しかし現代の幽霊船は生きていた。いよいよ渋谷博士愛機の視野には火星の姿が映ってきた。有名な運河帯がアリアリと現われてきた。世界じゅうの人類は寝ることも食べることも忘れて、渋谷式の受影機の前に並び、この前代未聞の見世物にながめいった。まもなく、待望の火星人が姿を現わすことだろう。
だが意外なことが、次の瞬間に起った。映写中のフィルムがパサリと切断してしまったように、受影機のうえの映像はにわかに掻き消されてしまった。それとともに、音響を伝える電波もとまってしまった。おそらく火星の地表まであと数百キロメートルという近くまで行ったのに、いったいこれはどうしたことか。それは、いまもって、かの宇宙塵と化し終った渋谷博士の行方とともに、解きえない謎である。……
私は寒星きらめく晴夜の天空をあおいで、深いといき[#「といき」に傍点]をついたことだった。
私にはいまひとつの想像がある。それは火星人が早くもあ
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