、他愛がないという外ない。
『盗まれた脳髄』は「雄弁《ゆうべん》」に載《の》ったもの。このテーマはずいぶん古くから持っていたものであるが、それを小説にしようと、あまり永い間あれやこれやと筋をひねったものであるから、書くときになって、もっといい扱い方があると思いながらも遂に一歩も新しい扱い方ができなかった作品である。僕は今にこの小説のようなことが確かに出来るだろうと思っている。
『或る宇宙塵の秘密』は「ラヂオの日本」に書いた短いもの。将来の科学小説として、この種のものがまず読書界に打って出るのではあるまいかと思う。この辺のものであれば、小説作法を知らない科学者にも、そう苦しまないで書けることと思う。
『キド効果』は「新青年」に書いた。これは作者として相当自信を持って書いたものである。それも将来の科学小説の一つの型になるものだと思っている。これが載ったのは或る年の新年号だった。そのとき紙上に八篇ほどの小説が載り、そしてどの作品が一番よかったかというので、読者採点を募集した。その結果、この『キド効果』は断然一等になるかと思いの外、断然ビリに落ちた。これには尠《すくな》からず悲観したが、僕は今も尚《なお》この作について自信を持っている。
『らんぷや御難《ごなん》』は「拓《ひら》けゆく電気」に書いたもの。これは卑近《ひきん》な生活の中に、科学を織りこんだもので、これまた一つの型だと思っている。
『百年後の世界』はAKから「子供の時間」に全国中継で放送したものの原稿である。空想に終始したものであって、荒唐無稽《こうとうむけい》であることはいうまでもないが、科学に趣味を持つ者にとって、このような表題について想を練《ね》ることは殊《こと》の外《ほか》愉快なものである。これは「子供の時間」である。が早く「演芸放送」の時間に堂々と科学小説が打って出る日が来てもいいと思う。このときに、音響効果を適当にやれば、普通のドラマでは到底《とうてい》出せないような新しい感覚的な娯楽放送を聴取者のラウドスピーカーに送ることが出来ように思っている。
『流線|間諜《スパイ》』は「つはもの」に連載されたスパイ小説である。この小説のテーマは、結局科学小説なのであるが、それをたいへん自慢にしていたところ、後から人の話では、これと同じことを実際ソ連の或る学者が計画しているというニュースが出ていたという話であって
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