こかにけし飛んでしまったというような形だった。
僕にいわせるなら、あのとき科学小説時代の約束が反古《ほご》になるべき何等《なんら》本質上の理由はなかったと思う。いやむしろ、本質的には、あのとき科学小説が一段と栄えてしかるべきであったと思う。渡洋爆撃への驚嘆、快速戦車部隊への刮目《かつもく》、敵の空襲や迫撃砲や機関銃に対する悲憤《ひふん》、それからまた軍需品製造への緊張、科学戦時代を迎えて青少年といわず老幼男女を問わず国民全体を科学教育することへの逼迫《ひっぱく》などと、あらゆる材料が読書界を科学小説時代へ持ってゆくための好条件であったのだ。しかも事実はそれに反して、科学小説時代はついに来なかった。純文芸の復興や、卑猥《ひわい》[#「卑猥」は底本では「卑擡」]小説の擡頭《たいとう》などの計画とともに、十把一からげの有様で、ついに科学小説時代の件もがらがらと崩れてしまったのである。これでは本質的には何とも説明のつけようがない。味噌も糞も見分けがつかないほど、編集者が大狼狽した結果であるというしかいいようがない。科学小説にとっては、まことに不運なことであった。
尤《もっと》も僕は、今日の
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