であろう。
『ヒルミ夫人の冷蔵鞄』は「科学ペン」に発表したもの。作者としては、わりあいに好きなテーマであるが、ただ紙数の制限から、書き足らぬのが残念である。こういうものをがっちりと書けば、科学小説の面白さが誰にもわかってくれると思う。
『生きている腸《はらわた》は「週刊朝日」に発表したものである。これは一見はなはだ荒唐無稽《こうとうむけい》であるけれど、これでなかなか示唆に富んだ未来小説だと作者自身はひとりでおそろしがっている次第である。
『宇宙囚第一号』は「科学主義工業」に発表したもの。これに関して、某紙上に共鳴者が現れたことは、作者のよろこびとするところであった。
『見えざる敵』と『軍用鮫』と『時間器械』との三つは、「新青年」に発表したもので、ナンセンス的科学小説である。
 こういうものを書いているときは、作者も至極《しごく》たのしい。
『月世界探険記』は「少年倶楽部」で落第し、その後何とかいう雑誌から原稿をねだられて出したもの。向こうでも心得たものか、いまだに原稿料を払わない。二三度人を介して談判したが、埒《らち》があかない。そのうちに面倒くさくなって、そのままになっている。こういう目にあうと、すっかり不愉快になって、その次からあまり見知らぬ雑誌から注文されると、原稿料のことはともかく、またあのような不愉快な目にあうのかと思い、ペンがうごかなくなる。それではお互いに不便であるから、その次からこの不愉快さを防ぐために、原稿料を下さるなら書きましょうといってやると、怪しい雑誌や新聞なら、そのとききっと「当社ではそのような規程《きてい》がありません。そういうことを要求される作家にはこっちからお断りします」などと、当初原稿料をねぎったことも忘れて、大変な権幕《けんまく》で返事をよこす。そこで原稿を書かないですむようになる。この方が、さばさばして、大いによろしい。その後、すべてこの手によって、不愉快から未然《みぜん》にのがれることにしている。『月世界探険記』は僕にそういうことを発見せしめた作品である。
『暗号数字』は「現代」に発表したもの。これをつくるために、かなりの日数を要した。作者としては、これも好きな作品の一つである。これを長編に書いて、謎を次へのこしてゆくようにすると、一層おもしろいだろうと思う。
 この小説につかってある「虫喰い算」について、僕は相当趣味をもっ
前へ 次へ
全4ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング