奥から目玉をぎょろりと光らせて云った。
「なあに大丈夫だとも。今穴の中に流し込んでいるセメントは、普通のセメントではないのだ。永くとも一時間あれば、すっかり硬くなってしまうセメントなんだよ。そのセメントのなかで○○獣は暴れているから、摩擦熱《まさつねつ》のため、セメントは一時間も罹《かか》らないうちに固まってしまうだろう」
なるほどそういうものかと敬二は、また感心した。
「そんなセメントがあるのは知らなかった。これも博士の発明品なのですか」
「そうじゃない。この早乾《はやかわ》きのセメントは前からあるものだよ。歯医者へ行ったことがあるかね。歯医者がむし歯につめてくれるセメントは五、六分もあれば乾くじゃないか。一時間で乾くセメントなんて、まだまだ乾きが遅い方なんだよ」
あっそうか。むし歯のセメントのことなら、敬二もよく知っていた。じゃあ○○獣は、そろそろセメント詰めになる頃だぞ。
大椿事《だいちんじ》
「ほほ、敬二君。いよいよ○○獣がセメントの中に動かなくなったらしいぞ。見えるだろう。さっきまで穴の中から白い煙のようなセメントの粉が立ちのぼっていたのが、今はもう見えなく
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