ないのはなぜだろうと、昨夜の愕くべき光景をくわしくドン助に話をしたのだった。
「ははア、そういうことなら分ったよ。つまりそのグルグル鬼ごっこをする大怪球――どうも大怪球なんて云いにくい言葉だネ、○○獣《マルマルじゅう》といおうじゃないか。――その○○獣を見たのは、お前一人なんだ。新聞記者も知らないんだ。もちろん何とかいった髯博士《ひげはかせ》も知らないんだ。これはつまり特ダネ記事になるよ。特ダネは売れるんだ。よオし、おれに委《まか》せろよ。○○獣の特ダネを何処《どこ》かの新聞記者に売りつけて、お金儲《かねもう》けをしようや」
「特ダネて、そんなに売れるものかい」
「うん、きっと売って見せるよ」そういっているときだった。
「その特ダネ、ワタクシ、貫います。お金、たくさんあげます」と、突然二人のうしろに声がした。
 ハッと敬二とドン助が顔をあげてみると、そこには見慣れない若い西洋人の女が立っていた。背はそれほど高くはないが、鳶色《とびいろ》の縮《ちぢ》れた毛髪をもち、顔は林檎のように赤く、そして男が着るような灰白色《かいはくしょく》のバーバリ・コートを着て頤《あご》を襟《えり》深く隠してい
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