う」
山ノ内総監も、急に元気づいて、水久保係長の言葉に賛成したのだった。
それから一時間ほどして、いよいよ博士が東京ビルの崩れおちた前にあらわれた。博士は強い近眼鏡《きんがんきょう》をかけて、鼻の下から頤《あご》へかけてモジャモジャ髯《ひげ》を生やしていた。
「なるほど話に聞いたよりひどい光景じゃ」と博士は目をみはりながら、崩れたビルの土塊《どかい》を手にとりあげたりしていたが「これはなかなか強い道具で壊《こわ》したと見える」
「先生、強い道具でとおっしゃっても、それを見ていた人間の話によると、道具はおろか、現場《げんじょう》には犬一匹いなかったそうです」
「何をいうのだ。儂《わし》のいうことに間違いはないのじゃ。たしかに強い道具で、これを壊したにちがいない。やがてそれがハッキリするときが来るにきまっている」
「そうですかねえ。だがどうも変だなア。見ていた連中は、誰も彼も、いいあわしたように、傍《かたわら》には何にも見えないのに、ビルだけがボロボロ壊れていったといっているんだが……」
水久保係長には、博士のいうことがよく嚥《の》みこめなかった。
しばらくすると博士は、腰をのばし
前へ
次へ
全48ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング