なったから」
「えっ、いよいよ○○獣が捕虜になったんですか」
 博士の云うとおり、○○獣の落ちた穴の中からは、最前までゆうゆうと立ち昇《のぼ》っていた白気《はっき》は見えなくなっていた。
 博士は穴の方へ飛びだしていった。
「おおい、皆こっちへ集ってくれ。○○獣を掘りだすんだ」
 さあ、いよいよ問題の○○獣を掘り出すことになった。消防隊はシャベルや鶴嘴《つるはし》をもって、穴のまわりに集ってきた。蒸気で動くハンマーも、レールの上を動いてきた。
 がんがんどすんどすんと、○○獣の埋《うず》まっている周囲が掘り下げられていった。セメントはもはや硬く固っていた。
 やがて掘りだされたのは、背の高い水槽《タンク》ほどもあるセメントの円柱だった。
「うむ、うまくいった。この中に○○獣がいるんだ。よかったよかった」
 と蟹寺博士はもみ手をしながら、そのまわりをぐるぐると歩きまわる。
 警備の隊員も見物人も、ざわざわとざわめいたが、折角の○○獣も、セメントの壁に距《へだ》てられて見えないのが物足りなさそうであった。
「博士《せんせい》。○○獣はセメントで固めたまま抛《ほう》って置くのですか」
「うん、分っているよ、敬二君。こいつは用心をして扱わないと、飛んだことになるのだ。まあ儂《わし》のすることを見ているがよい」
 蟹寺博士は、セメント詰めの○○獣をトラックの上に積ませた。そしてそのトラックは騒ぎを後に、東京ホテルの広場から走りだした。その後《うしろ》からは、幾十台の自動車がぞろぞろとつき従ってゆく。
 やがてこのセメント詰めの○○獣は、帝都大学の構内に搬《はこ》びこまれた。
 蟹寺博士は先頭に立って、指図《さしず》をしていた。まずX線研究室の扉《ドア》がひらかれ、その中に○○獣を閉じこめたセメント柱《はしら》が搬びこまれた。室内は直ちに暗室にされた。ジイジイとX線が器械から放射され、うつくしい蛍光が輝きだした。
「ああ、見えるぞ」
 博士は叫んだ。蛍光板の中にぼんやりと二つの丸い球が見えだした。
 後からついてきた人たちも、それっというので眼を瞠《みは》った。
「どうもこの儘《まま》では危い。この二つの○○獣を互いに離して置かないと、いつまた前のようにぐるぐる廻りだすか分らない。さあ、この辺から、セメントの柱を二つに鋸引《のこぎりび》きをしてくれたまえ。柱が壊《こわ》れないよ
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