ネがらやきもきしてみたが近頃ではとんと根気まけがしてなにも考えないようになってしまった。つまり考えてみてもどうにもならんと諦めてしまったのだ。まことに意気地ない話だが、すっかり兜をぬいでしまったのである。但し、困ったことにそんな風になると一切万事が自分にとってまるで無意味に無価値になると同時に、自分という渺たる一存在もこの世の中からまったく無用なものとして取り扱かわれても更に文句の申し立てようもなく、いずれの組合仲間からも無関係な人間で、まったくひとりぼっちになってしまった形で、どうして生きていいかわからなく[#底本の「わかなく」を「わからなく」に訂正]なってしまったのである。その上、ブラブラしていられる財産でもあればとも角、無一物に等しい身分だから忽ち周囲に迷惑をかけることになるのである。せめて、今迄のようにいくらかでも文章を書くことによって若干の金を得られるならいいと思うが、その文章が一向書けなくなってしまったのである。つまり、頭が空虚になってしまった上、文字を書く興味が著しく減じてしまったのである。精神がもぬけのからになって、残骸が徒らに呼吸しているというような状態なのである。自
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