てなにをするのか? 第一、書斎というからには少なくとも書物の百冊や二百冊位はなければならない。それに書斎で、全体私のような人間がなにをやるのか? せいぜい雑誌の二、三種類位読むに過ぎない。書斎ズラがあってたまるか?――というような腹がかならずあったに相違ありません。私は自分が真から考えていたことを一笑に付してしまわれたので、恥ずかしくもあり、腹立たしくもあったのです。私はその時分、心から色々な書物をゆッくり読む時間と場所とが欲しかったのでした。
私はなにも立派な書斎らしい書斎が欲しいといったわけではなかったのです。つまり自分が静かに落ち着いていられる部屋が欲しいという程の意味に過ぎなかったのです。
その後、私が五、六年辛抱した結果、ようやく私の趣味を満足するに足る一軒の巣を見つけ出したのです。それは東京の西北の郊外にでした。そこに私は母と妹と三人暮らしでいました。思えばその時が今までの生活のうち最も静かな幸福な時だったに相違ありません。
その家は丘の上に建てられていました。間数は僅か三間で六畳と三畳と四畳半という極めてささやかな家でしたが、植木家が家主だけあって、家の造りが極めて
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