て全然無知な猫杓子共は、自分のことを棚へあげて時々知ったか振りの批評がましいことをやるがはなはだヘソ[#「ヘソ」に傍点]茶でもあり、気の毒でもある。
僕は君達の生活に指一本でも差そうとはいわないのだ。よけいなおせッかい[#「おせッかい」に傍点]はしてもらいたくないものだ。
野枝さんと僕が初めて馴れ染めてからのおもいでを十年あまりも昔にかえってやることになると、なかなか小説にしてもながくなるが今は断片に留めておく。原稿商売をしていればこそこんなことも書かなければならないのかと考えると、まことに先立つものはイヤ気ばかりだ。
野枝さんは十八でU女学校の五年生だったが、僕は十ちがいの二十八でその前からそこで英語の先生に雇われていた。
野枝さんは学生として模範的じゃなかった。だから成績も中位で、学校で教えることなどは全体頭から軽蔑しているらしかった。それで女の先生達などからは一般に評判がわるく、生徒間にもあまり人気はなかったようだった。
顔もたいして美人という方ではなく、色が浅黒く、服装はいつも薄汚なく、女のみだしなみを人並以上に欠いていた彼女はどこからみても恋愛の相手には不向きだった
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