た。
それから新聞を見ることが恐ろしく不愉快になりだした。だから不愉快になりたい時はいつでも新聞を見ることにきめた。
四国のY港にはダダの新吉が病んでいる。僕はあながち彼の病気を見舞うためではないが、しばらくY港で暮らす決心がついたのでY港へやってきた。
Y港にはS氏というモンスターのようなディレッタントがいて、僕にわがままをさせてくれるというので僕は行く気になったのだ。
Y港へくると、早速九州の新聞社の支局の記者がきて、「大杉他二名」に対する感想を話してもらいたいといった。
僕はどういっていいかわからないので当惑してしまった。
――僕はこの際なにもいう気がしませんがあなたも御職しょう柄でおいでのことですから、御推察の上よろしいようにお書き下さい――
といった。
すると、僕が野枝さんに対して「愛憎の念が交々」起こったりしたというような記事があくる日の新聞に出た。
僕はそれをみてやはり記者というものはなかなかうまいことを書くものだと思って感心したりした。
その前にはまた野枝さんが二人の子供まである僕を棄てて大杉君のところに走ったのは、よほど[#「よほど」に傍点]の事情
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