れたり、飯を食わしてくれたり、小遣い銭をくれたりしたのは、やはり私娼やバク徒やその他異体の知れぬ人達であったのだ。僕の親類にも岩崎家に関係があったり、数万の財産を持っている人間もなくはないが、そんな時には一向お役には立たないのである。
 しかし日本もかなり文化したのだから、僕のようなスカラア・ジプシイの思想と芸術を尊重して、仏蘭西に洋行でもさせてくれる酔狂な金持ちの二、三人位はそろそろ出てきてもよさそうなものだ。僕は決して遠慮や辞退はしないつもりだから安心してもらいたい。僕はまたダダイストで社会主義でも無政府主義でもなんでもないから、洋行させてもらった返礼にプロレタリアを煽動したりなにかはやらないからこの点にも安心してくれたまえ。
 野枝さんは子供の時に良家の子女として教育され、もっとすなおに円満に、いじめられずに育ってきたら、もっと充分に彼女の才能を延ばすことが出来たのかも知れなかった。もっと落ち着いて勉強したのかも知れなかった。不幸にして変則な生活を送り、はなはだ変則に有名になって、浅薄なヴァニティの犠牲になり、煽てあげられて、向こう見ずになった。強情で、ナキ虫で、クヤシがりで、ヤ
前へ 次へ
全40ページ中36ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
辻 潤 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング