。ナポレオンなどは偉大なる火事場ドロボーだそうである。かと思うと、戦争中に兵隊に送る罐詰の中に石を入れたりするドロボーもいるそうである。同じドロボーでも随分と色々あるものだ。だから、十束一からげにされてはどんな人間でもやりきれない。鮮人が放火人で、社会主義がバクダンで、ボルシェビキが宣伝ビラで、無政府主義が暗殺で、資本家が搾取で、プロレタリヤが正直で、唯物史観がマルクスで、進化論が猿で、大本教がお筆先で、正にあるべきはずなのが大地震だったりしては、一切は鮒が源五郎で、元結は文七であるより以上にたまらない、迷惑至極な道理である。
 耶蘇は小便をしても手を洗わなかったり、酒を呑んだり、淫売と交際したり、漁師と友達だったりしたということであるが、僕も実に交遊天下にあまねく、虫の好く人間なら、その境遇と職業と主義と、人格と才能と美醜と、賢愚と貧富とエトセトラの如何を論ぜず、友達になる。だから、僕の交遊の種類はまことに千差万別で、僕はどうやら、社会の職業は文士であるようではあるが、文士や芸術家以外に職人、役者、相場師、落語家、娼婦、社会主義、船乗り、アナーキスト、坊主、女工、芸者、――その他なん
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