ちして、困りぬいた揚句、乳児の流二君を上総の海岸にオイテキボリをくわしたのであった。
幸運なる流二君は親切にも無教育な養父母の手に養われて目下プロレタ生活修業中であるが、上総ナマリのテコヘンなるアクセントにはさすがの僕も時々閉口するのである。しかし流二君は恐ろしく可愛がられている。わがまま放題に育てられている。――それ以上を望むことは僕の如き人間の要求する方がまちがいである。流二君、願わくば素敵なダダになれ!
僕角帯をしめ、野枝さん丸髷に赤き手柄[#「手柄」に傍点]をかけ、黒襟の衣物を着し、三味線をひき、怪し気なる唄をうたったが、一躍して婦人解放運動者となり、アナーキストとなって一代の風雲児と稀有なる天災の最中、悲劇的の最後を遂げたるはまことに悲惨である。惜しむべきである。更に恐ろしいことである。お話にならぬ出来事である。開いた口が塞がらぬ程に馬鹿気たことである。
同じ軍人でもネルソンもあればモルトケもいれば、乃木大将のような人もあるかと思うとアマカスとか、マメカスとかいうような軍人もいる。児雷也もドロボーなら石川五右衛門もドロボーである。ネズミ小僧やイカケの松君もドロボーである
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