。文化は三千年程逆戻りだ。それも性からの原始人ならば獅子や虎と同じに相手が出来るが、なまじ妙な教育とかなんとかいうものがあり過ぎるので始末がわるい。
豚に真珠ということもあるが、野蛮人に刃物ということもある。社会主義というものがどんなに立派なイズムだか知らないが、それをふりまわす人間は必ずしも立派な物じゃない。仏や耶蘇の教義だって同じことだ。仏教やヤソ教の歴史を考えてもみるがいい。神様をダシに使って殺人をやった野蛮人がどれ程いたか。
野枝さんや大杉君の死について僕はなんにもいいたくない――あの日に僕のK町の家を尋ねてくれたそうだが、それはK町に大杉君の弟さんがいたから、そのついでによったのでもあろう。
野枝さんは殺される少し以前に、アルスから出た大杉君と共訳のファーブルの自然科学をまこと君に送ってくれた。それが野枝さんのまこと君に対する最後の贈り物で、形見になったわけだ。
僕はこの数年、つまり野枝さんとわかれてから、まったく、わかれてからというよりは解放されてからといった方が適切かも知れない――御存知のようなボヘエムになってしまった。心機一転して僕自身にかえり、僕は気儘に生きて
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