る魂』、宮崎資夫の『仮想者の恋』、野上弥生女史の『或る女』、大杉君の『死灰の中より』、谷崎潤一郎の『鮫人』――その他まだ色々とある。
 僕の生活はまことに浮遊で、自分では生まれてからまだなに一つ社会のためにも人類のためにも尽したことがない位にバイ菌でもあるが、僕の存在理由はだがそれらの傑作を供給したことによってもいささか意義がありそうでもある。また三面種を供給して世人をしばしの退屈から脱却せしめる点においてもあまり無意味でもなさそうだ。なにも大日本帝国に生まれたからといって朝から晩まで青筋を立てシカメッツラをして、なんら生産にもならないやかましい議論をして暮らさなけりゃならないという義務もあるまい。たまには僕のような厄介な人間一匹位にムダ飯を食わしておいたとて、天下国家のさして害にはなるまい。
 僕は絶学無為の閑道人で、ただフラリフラリとして懐中にバクダン一個持っているわけでもないから、警察の諸君も御心配は御無用だ。この上誰かのようにアマヤカされたりしては、それこそやりきれたものじゃない。
 全体神経が過敏すぎる。恐迫観念が強すぎる、洒落やユーモアのわからない野蛮人に遇っては助からない
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