きた。しかし事ある毎にいつも引き合いに出されるのは借金がいつまでたっても抜けきれない感がある。恐らく死ぬまでまた幾度となく、更に死んでからも引き合いに出されることだろう。無法庵はこないだもまた十八番の因縁をもって法とするとエラそうなことをいって訣別の辞を残したが、まったく因縁ずくというものはどうも致仕方がない。――あきらめるより致仕方はない。
 僕はおふくろとまこと君とを弟や妹とに託して、殆ど家を外にして漂泊して歩いていまでもいる。現に四国港に流れついて、またこれからどこへ行ってやろうなどと現に考えている――だから僕の留守に度々野枝さんはまこと君に遇いにきたそうだ。しかも下谷にいる時などは僕と同棲中僕のおふくろから少しばかり習い覚えた三絃をお供つきで復習にきたなどという珍談もある。僕のおふくろでも弟でも妹でもみんな野枝さんが好きなようだった。ただまこと君だけはあまり野枝さんを好いてはいなかったようだ。
 大杉君が子供が好きだということは先輩諸君もアチコチで書いていられるようだが、まこと君は大杉ヤのおじさん――とまこと君はいつでも大杉君のことを呼んでいたが――に連れられてしばしば鎌倉や葉
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