る人を連れてきてくれる方が都合がよいというので、僕が一緒に行くことになった。
 僕はその時、初めて渡辺政太郎氏に会ったのである。渡辺君は今は故人だが、例の伊豆の山中で凍死した久板君などと親友で、旧い社会主義者の間にあってはかなり人望のあった人であった。渡辺君は死ぬ前には「白山聖人」などといわれた位な人格者であったが、僕はその時から非常に仲がよくなった。
 渡辺君はその時分、思想の上では急進的なつまりアナキストであるらしかった。僕は渡辺君が何主義者であるかそんなことは問題ではなかった。僕は渡辺君が好きで、渡辺君を尊敬していた。
 その後大杉君を僕らに紹介したのもやはりその渡辺君であった。
 渡辺君は、僕の子供を僕ら以上の愛を持って可愛がってくれた。僕の親愛なるまこと[#「まこと」に傍点]君は今でもそれを明らかに記憶してその叔父さんをなつかしんでいるのである。
『或る百姓の家』の著者江渡狄嶺君を僕に紹介してくれたのもその渡辺君であった。
 狄嶺氏とはしばらく音信消息を断絶しているが、僕は江渡君のような人が存在していることをひそかに心強く感じているのである。僕が氏を信じている如く、氏もまた必
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