ょう+囘」、第4水準2−12−11]りでした。
 姉の家族が故郷へ向けて出發した日のことは、まだいくらか私の眼にあります。白い髮の祖母さんから、子供まで、皆な國まで買切の人力車《くるま》に乘つて出掛けました。姉の居た家には鷲津さんが入ることに成りました。で、私は親身の姉の手から『鷲津の姉さん』と呼ぶ人の手に渡されたのです。
 鷲津さんの家族はたつた親子二人ぎりでした。禿頭に細いチヨン髷を結つて居た老爺《おぢい》さんと、その娘にあたる獨身の姉さんと。斯の老爺さんは私達の隣國の舊藩士で、過去つた時代には相應の高い地位に居たとやら。多藝な人で、和歌の添削などをするかたはら、その家へ移つて來てからは碁會所の看板を掛けました。鷲津の姉さんはまた女でも可成に碁の打てる人でしたから、部屋々々に毛氈《まうせん》などを敷き、重い碁盤を置き、客が來ればその相手に成りました。
 一人東京に殘されました少年の私の身に取つては、斯の同じ家の内が全く別の世界のやうに成りました。姉は私のことを鷲津さんによく頼んで置いて歸つて行つたのですが、最早私の周圍には以前のやうな注意を拂つて呉れる人は居りませんでした。私はそれ
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