サシミでしたから……
 姉と一緒に居た間、私は殆んど忿怒《いかり》といふものも知らなかつたほど自分の少年らしい性質が延びて行つたことを感じます。甥の下にはまだ頑是《ぐわんぜ》ない年頃の姪が一人ありました。その姪は姉が東京に家を持つてから生れた子供です。あの日、私が學校から歸つて來て自分の机のところへ行つて見ますと大事に/\して置いた新しい洋綴の帳面には目茶苦茶に何か書き散してありました。斯の亂暴な行ひは直に小さな姪のいたづらと知れましたが、そのために自分の忿怒《いかり》を奈何《どう》することも出來ませんでした。私はその帳面を引裂いて了ひました。口惜しかつたと思つたことは、その時ぐらゐのものです。一體に姉は清潔好《きれいず》きでしたから、私は姉を悦ばせようと思つて表や庭の掃除をよくやりました。ある時、二階の硝子窓の外にある露臺へ夏の雨が來ました。私はその雨降の中へ出て、汚れたトタンの上を洗つて、姉を悦ばせたことも有りました。どうかすると姉は夫や子供と共に寢室を離れないで居る朝などには、早起の祖母さんが階下《した》でブツ/\言ひます。さういふ時に、姉を呼び起しに行くのは私の役※[#「えんに
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