居ます。
『洋燈を點けてるのかい――隨分舊弊だねえ。』
とその八つに成る毛筆屋の子が申しました。流石《さすが》都會に育つ子供はマセた口の利きやうをすると思ひました。
八月の末から九月の初へかけて毎年のやうに降る大雨が今年は一時にやつて來て、乾き切つた町々を濡らしました。隅田川も濁つて灰汁《あく》を流したやうに成りました。狹い町中とは言ひながら、早や秋の蟲が縁の下の方でしきりに鳴きます。冷々《ひや/\》とした部屋の空氣の中でその鳴聲を聞きながら、毛筆屋の子に笑はれた洋燈の下で、私は斯の手紙を書き續けます。
少年の私が銀さんと一緒に東京へ遊學することに成りました時は、銀さんが數へ年の十二、私が九つでした。まだ他にお文さんの二番目の兄さんも眼の療治のために同行することに成りました。
その日も近づいた頃、銀さんは裏の梨の樹の下あたりに腰掛けて、兄貴に東京行の頭を刈つて貰ひました。村には理髮店といふものも無い時でしたから、兄貴が襷掛で、掛る布も風呂敷か何かで間に合せて、銀さんの髮を短く剪《はさ》みました。私の方はまだ一向な子供でしたから、髮も長く垂下げたまゝで可からうと言はれました。私は
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