まだそれほど遠く行きませんでした。でも裏の田圃道に出て、高い樹木の上の方に小鳥の囀るのを聞くのは樂みでした。田圃|側《わき》には『スイコギ』の葉を垂れたのが有りました。それを採つて、鹽もつけずに食ひました。村の學校のあつた小山の下のところには細い谷川が流れて居ます。そこへ私はお牧から借りた笊《ざる》を持つて行つて鰍《かじか》をすくつたことも有ります。お文さんも腕まくり、裾からげで、子供らしい淡紅色《ときいろ》の腰卷まで出して、石の間に隱れて居る鰍を追ひました。
何時の間にか私は斯の隣の家の娘と二人ぎり隱れるやうな場所を探すやうに成りました。私達は桑畠の間にある林檎の樹の下を歩き又は玄關から細長い廂風《ひさしふう》の小座敷を通り拔けて、上段の間の横手に坪庭の梨の見えるところへ行きました。すると極りで、若い嫂が私達を探しに來ました。
お牧、お霜婆、斯の手紙には私は主に少年の眼に映じた婦人のことを貴女に書く積りですから、その順序として幼少《をさな》い隣の家の娘のことを御話するのです。有體《ありてい》に言へば、私は女といふものに初めて子供らしい情熱を感じました。私はお文さんを堅く抱締めたこ
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