には一番恐しかつた。それは夜鷹の鳴く日暮方にでも通るもので、一度浚はれたら、兩親の許へ歸つて來ることが出來ないやうにも思はれました。
すこし見慣れないものが有ると、私は子供心に眼をとめて見ました。そして不思議な恐怖に襲はれることが有りました。太助がよく働いて居た木小屋の前を通り拔けて、一方の裏木戸の外へ出ますと、そこには稻荷が祭つてあります。葉の尖つた柊《ひゝらぎ》、暗い杉、巴丹杏《はたんきやう》などが其邊に茂つて居まして、木戸の横手にある石垣の隅には見上げるほど高い枳殼《からたち》が立つて居ました。あの棘の出た幹の上の方に、ある日私は大きな黒い毛蟲の蝶を見つけました。田舍で荒く育つた私の眼にも、その蝶ばかりは薄氣味の惡いほど大きかつた。そして毒々しい黒い翅を震はせて居ました。私は小石を拾つて投げつけようとしましたが、恐ろしくなつて、そのまゝ母屋の方へ逃げて歸つたことが有りました。
斯の手紙を書きかけて置いて、私は兄弟の子供を連れながら河岸の方まで歩きに行つて來ました。榊神社の境内まで行くと、兄の方はぷいと腹を立てゝ家の方へ歸つて了ひましたから、私は弟の方だけ連れて、河岸へ出ました
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