《ふと》って丈夫そうなお霜婆さんだ。私の郷里では、このお霜婆さんの話すように、女でも「おら」だ。
 「どうだなし、こんないい家ができたら、お前さまもうれしからず。」
 と、今度はお菊婆さんが言い出した。無口なお霜婆さんに比べると、この人はよく話した。
 「今度帰って見て、私も安心しました。」と、私は言った。「私はあの太郎さんを旦那衆《だんなしゅう》にするつもりはありません。要《い》るだけの道具はあてがう、あとは自分で働け――そのつもりです。」
 「えゝ、太郎さんもその気だで。」と、お菊婆さんは炉の火のほうに気をくばりながら言った。「この焚木《たきぎ》でもなんでも、みんな自分で山から背負《しょ》っておいでるぞなし。そりゃ、お前さま、ここの家を建てるだけでも、どのくらいよく働いたかしれずか。」
 炉ばたでの話は尽きなかった。
 三日《みっか》目には私は嫂《あによめ》のために旧《ふる》いなじみの人を四方木屋《よもぎや》の二階に集めて、森さんのお母《かあ》さんやお菊婆さんの手料理で、みんなと一緒に久しぶりの酒でもくみかわしたいと思った。三年前に兄を見送ってからの嫂《あによめ》は、にわかに老《ふ
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