ころだ。」
「なあんだ、郵便か。」
と、三郎は頭をかきかき、古い時計のかかった柱から鍵《かぎ》をはずして路地《ろじ》の石段の上まで見に出かけた。
郷里のほうからのたよりがそれほど待たれる時であった。この旅には私は末子を連れて行こうとしていたばかりでなく、青山の親戚《しんせき》が嫂《あによめ》に姪《めい》に姪の子供に三人までも同行したいという相談を受けていたので、いろいろ打ち合わせをして置く必要もあったからで。待ち受けた太郎からのはがきを受け取って見ると、四月の十五日ごろに来てくれるのがいちばん都合がいい、それより早過ぎてもおそ過ぎてもいけない、まだ壁の上塗《うわぬ》りもすっかりできていないし、月の末になるとまた農家はいそがしくなるからとしてあった。
「次郎ちゃん、とうさんが行って太郎さんともよく相談して来るよ。それまでお前は東京に待っておいで。」
「太郎さんのところからも賛成だと言って来ている。ほんとに僕がその気なら、一緒にやりたいと言って来ている。」
「そうサ。お前が行けば太郎さんも心強かろうからナ。」
私は次郎とこんな言葉をかわした。
久しぶりで郷里を見に行く私は、
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