時沈まり返ってしまった。
どうかすると、子供らのすることは、病んでいる私をいらいらさせた。
「とうさんをおこらせることが、とうさんのからだにはいちばん悪いんだぜ。それくらいのことがお前たちにわからないのか。」
それを私が寝ながら言ってみせると、次郎や三郎は頭をかいて、すごすごと障子のかげのほうへ隠れて行ったこともある。
それからの私はこの部屋に臥《ね》たり起きたりして暮らした。めずらしく気分のよい日が来たあとには、また疲れやすく、眩暈心地《めまいごこち》のするような日が続いた。毎朝の気分がその日その日の健康を予報する晴雨計だった。私の健康も確実に回復するほうに向かって行ったが、いかに言ってもそれが遅緩で、もどかしい思いをさせた。どれほどの用心深さで私はおりおりの暗礁《あんしょう》を乗り越えようと努めて来たかしれない。この病弱な私が、ともかくも住居《すまい》を移そうと思い立つまでにこぎつけた。私は何かこう目に見えないものが群がり起こって来るような心持ちで、本棚《ほんだな》がわりに自分の蔵書のしまってある四畳半の押入れをもあけて見た。いよいよこの家を去ろうと心をきめてからは、押入れ
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