色は、これから嫁《とつ》いで行こうとする子に着せるものにふさわしい。
「そう言えば、お民、半蔵が吾家《うち》の地所や竹藪《たけやぶ》を伏見屋へ譲ったげなが、お前もお聞きかい。」
おまんの言う地所の譲り渡しとは、旧本陣屋敷裏の地続きにあたる竹藪の一部と、青山家所有のある屋敷地二|畝《せ》六|歩《ぶ》とを隣家の伊之助に売却したのをさす。藪五両、地所二十五両である。その時の親戚請人《しんせきうけにん》には栄吉、保証人は峠の旧|組頭《くみがしら》平兵衛である。相変わらず半蔵のもとへ手伝いに通《かよ》って来る清助からおまんはくわしいことを聞き知った。それがお粂の嫁入りじたくの料に当てられるであろうことは、おまんにもお民にも想像がつく。
「たぶん、こんなことになるだろうとは、わたしも思っていたよ。」とまたおまんは言葉をついで、「そりゃ、本陣から娘を送り出すのに、七通りの晴衣《はれぎ》もそろえてやれないようなことじゃ、お粂だって肩身が狭かろうからね。七通りと言えば、地白、地赤、地黒、総模様、腰模様、裾《すそ》模様、それに紋付ときまったものさ。古式の御祝言《ごしゅうげん》では、そのたびにお吸物も変わ
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