清い人はめったにない――あんな人をおれは見たことがない。」
「そうだ、三郎さんの言うとおりだ。せめてもう十年お師匠さまを生かして置きたかったよ。」
 勝重の嘆息だ。
 その日には奥筋の方から着いたお粂らを迎えて半蔵の霊前に今一夜語り明かそうという手はずも定《き》めてある。やがて墓地には一人去り、二人去りして、伏見屋主人や清助から若い弟子たちまでもと来た細道を引き返して行ったが、勝重のみはまだそこに残って、佐吉らが墓穴を掘るさまをながめたたずんだ。
 その時になって見ると、旧庄屋として、また旧本陣問屋としての半蔵が生涯もすべて後方《うしろ》になった。すべて、すべて後方になった。ひとり彼の生涯が終わりを告げたばかりでなく、維新以来の明治の舞台もその十九年あたりまでを一つの過渡期として大きく回りかけていた。人々は進歩をはらんだ昨日の保守に疲れ、保守をはらんだ昨日の進歩にも疲れた。新しい日本を求める心はようやく多くの若者の胸にきざして来たが、しかし封建時代を葬ることばかりを知って、まだまことの維新の成就する日を望むこともできないような不幸な薄暗さがあたりを支配していた。その間にあって、東山道工
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