事中の鉄道幹線建設に対する政府の方針はにわかに東海道に改められ、私設鉄道の計画も各地に興り、時間と距離とを短縮する交通の変革は、あだかも押し寄せて来る世紀の洪水《こうずい》のように、各自の生活に浸ろうとしていた。勝重は師匠の口からわずかにもれて来た忘れがたい言葉、「わたしはおてんとうさまも見ずに死ぬ」というあの言葉を思い出して悲しく思った。
「さあ、もう一息だ。」
その声が墓掘りの男たちの間に起こる。続いて「フム、ヨウ」の掛け声も起こる。半蔵を葬るためには、寝棺を横たえるだけのかなりの広さ深さもいるとあって、掘り起こされる土はそのあたりに山と積まれる。強いにおいを放つ土中をめがけて佐吉らが鍬《くわ》を打ち込むたびに、その鍬の響きが重く勝重のはらわたに徹《こた》えた。一つの音のあとには、また他の音が続いた。
[#地から2字上げ]「夜明け前」第二部――終
底本:「夜明け前 第二部(下)」岩波文庫、岩波書店
1969(昭和44)年2月17日第1刷発行
1995(平成7)年12月15日第26刷発行
底本の親本:「改版本『夜明け前』」新潮社
1936(昭和11)年7月
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