お民らに呼ばれても答える人ではなかった。享年五十六。五人もある子の中で彼の枕《まくら》もとにいたものは長男の宗太ばかり。お粂《くめ》ですら父の臨終には間に合わなかった。
その暁から降り出した雨はやみそうもない。裏藪《うらやぶ》の竹の葉にそそぐ音だけでも、一雨ごとにこの山里へ冬のやって来ることを思わせる。お民らが半蔵の枕もとに付いていてほのかな鶏の声をきいたころに、彼はすでにこの世の人ではなかったのであるが、時を置いて彼の顔をのぞきに行くたびに、雨に暗い空も明けて行き、青白い光線は東南の間にあたる高い窓からその部屋《へや》へさし入って来た。やがて皆のものがうち寄って半蔵のからだをぬぐい浄《きよ》めるころは、そこいらはもう朝だ。遺骸《いがい》は青い蓙《ござ》の上に横たわり、枕の位置も変わって見ると、病床もすでに死の床ではあったが、しかしお民らの目にはまだ半蔵がそこに眠っているかのようであった。
栄吉、清助、庄助、勝之助らは前後して木小屋に集まりつつあった。隣家からは二代目伊之助の顔も見えた。半蔵が二人の若い弟子、伏見屋の三郎と梅屋の益穂《ますほ》とがこんな時の役に立とうとして皆の間に立
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