、やがて母や清助に伴われながら木小屋の方への降り口にある深い井戸について、土蔵のそばの石段を降りた。


 北と西は木戸だ。三棟《みむね》ある建物のうしろには竹の大藪《おおやぶ》がめぐらしてあって、東南の方角にあたる石垣《いしがき》の上には母屋《もや》の屋根が見上げるほど高い位置にある。これが馬籠旧本陣の裏側にあたるところで、石垣のすぐ下に掘ってある池も深い。武家と公役との宿泊や休息の場処に当てられた昔は、いざと言えば裏口へ抜けられる後方の設備の用心深さを語るかのような、古い陣屋風の意匠がそこに残っている。
 三棟ある建物のうち、その二棟は米倉として使用し来たったところであり、それに連なる一棟が木小屋である。小屋とは言いながら、そこは二階建ての古い建物で、間口も広く造ってある。中央の土間もかなり広く取ってある。下男の佐吉が長いこと自分の世界として働いて来たのもそこで、山から背負って来る薪《まき》、松葉の類は皆その小屋に積まれ、藁《わら》もそこにたくわえられた。父半蔵の座敷牢はそんな竹の大藪を背後《うしろ》にしたところに隠れていた。
 お粂は母と共に、清助が隣家の方へ裏づたいに帰って行く
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