らないことがある。」
「まあ、半蔵さんがあんなことになろうとはだれも思わなかったッて、妻籠の伯父《おじ》さんもそう言っておいででした。お酒がすこしいき過ぎましたねえ。」
とお粂も答えて、母と共に嘆息した。
隣家伏見屋の酒店に番頭格として働いている清助がそこへ顔を見せた。新酒売り出しのころにもかかわらず、昔を忘れない清助はそのいそがしいなかにわずかの間を見つけ、裏づたいに酒蔵を回っては青山方の木小屋へ見回りに来る。お粂の着いたことも清助は佐吉から聞いて来たという。
「いやはや、今度という今度はわたしも弱りました。粂さまは何も御存じないでしょうが、亀屋《かめや》(栄吉のこと)と二人で憎まれ役でさ。お師匠さまにはあの隠宅もありますし、これがただの気鬱症《きうつしょう》か何かなら、だれもあんな暗いところへお師匠さまを入れたかありません。お寺へ火をつけるようなことがあったものですから、それから大《おお》やかまし。おまけに、ちょうど馬籠の祭礼の最中で、皆あわててしまいましたわい。」
清助は清助らしいことをかき口説《くど》いた。薬の力で父がぐっすり眠っているという間、お粂は裏二階に足を休めたが
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