を西へ急いで来る時の彼女の胸を往《い》ったり来たりした。彼女はお槇《まき》が代筆した母お民からの手紙でも読み、弟宗太も西|筑摩《ちくま》郡書記の身でそう馬籠での長逗留《ながとうりゅう》は許されないとあって、木曾福島の勤め先へ引き返した時のじきじきの話にも聞いて、ほぼ父のようすを知っていた。五人ある姉弟《きょうだい》の中でも、彼女は父のそばに一番長く暮らして見たし、父の感化を受けることも一番多かったから、父のさびしさも彼女にはよくわかった。彼女は父のことを考えるたびに、歩きながらでもときどき涙ぐましくなることがあった。
三留野《みどの》泊まりで、お粂は妻籠《つまご》に近づいた。ちょうどその村の入り口に当たる木曾川のほとりに一軒の休み茶屋が見えるところまで行くと、賤母《しずも》の森林地帯に沿うて河《かわ》づたいに新しい県道を開鑿《かいさく》しようとする工事も始まっているころであった。遠くの方で岩壁を爆破させる火薬の音は山々谷々に響き渡った。旧《ふる》い街道筋をも変えずには置かないようなその岩石の裂ける音は恐ろしげにお粂の耳を打つ。その時、木曾風俗の軽袗《かるさん》ばきでお粂らの方へ河岸を
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