が迫って来ている中を母屋《もや》から木小屋へと引き立てられて行ったのも、この半蔵である。裏の土蔵の前あたりには彼を待ち受ける下男の佐吉もいた。佐吉は暗い柿《かき》の木の下にしゃがみ、土の上に片膝《かたひざ》をついて、変わり果てた旧主人が通り過ぎるまではそこに頭をあげ得なかった。

       三

 植松の家に嫁《かたづ》いて行っているお粂《くめ》がこの報知《しらせ》に接して、父の見舞いに急いで来たのは、やがて十月の十日過ぎであった。彼女が夫の弓夫もすでに木曾福島への帰参のかなったころで、長い留守居を預かって来た大番頭をはじめ小僧たちにまで迎え入れられ、先代|菖助《しょうすけ》がのこした屋敷の大黒柱の下にすわり、大いに心を入れ替えて家伝製薬の業に従事するという時であった。この馬籠訪問には、彼女はめったに離れたことのない木曾福島の家を離れ、子供も連れずであった。ただ商用で美濃路《みのじ》まで行くという薬方《くすりかた》の手代に途中を見送ってもらうことにした。
「あゝ、お父《とっ》さんもとうとう狂っておしまいなすったか。」
 その考えは、駒《こま》ヶ嶽《たけ》も後方《うしろ》に見て木曾路
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