の九郎兵衛をはじめ、町内の重立った旦那衆にも集まってもらって、広い囲炉裏ばたに続いた寛《くつろ》ぎの間《ま》ではまたまた一同の評定があった。何しろ旧い漢法の医術はすたれ、新しい治療の方法もまだ進まなかった当時で、ことに馬籠のような土地柄では良医の助言も求められないままに、この際半蔵のからだに縄《なわ》をかけるほどの非常手段に訴えてまでも座敷牢に引き立て、一方には彼の脱出を防ぎ、一方には狼狽《ろうばい》する村の人たちを取りしずめねばならないということになった。これは勢いであって、その座に集まる人々にはもはや避けがたく思われたことである。ところが、だれもお師匠さまを縛るものがない。その時、旧宿役人仲間でも一番年下に当たる蓬莱屋《ほうらいや》の新助が進み出て、これは宗太を出すにかぎる、宗太なら現に青山の当主であるからその人にさせるがいい、お師匠さまも自分の相続者までが病気と認めると聞いたら我を折るようになるだろうと言い出した。以前から旧本陣に出入りの百姓らにも手伝わせること、日ごろ二十何貫の大兵《だいひょう》肥満を誇り腕力のたくましいことにかけては町内に並ぶもののない問屋九郎兵衛のごとき人に
前へ
次へ
全489ページ中438ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング