来た。半蔵のことを心配して前日以来かわるがわる店座敷に付ききりでいる親類仲間のまちまちな意見も、老人の診断一つで決するはずであった。万事のみ込み顔な杏庵は早速半蔵の居間へ通り、脈を取ってしらべて見たが、一度や二度の診察ぐらいでそうはっきりしたことも医師には言えないものだとの挨拶《あいさつ》である。ただ杏庵は日ごろ好酒家の半蔵が飲み過ぎの癖をよく承知していたし、それにその人の不眠の症状や顔のようすなぞから推して、すくなくも精神に異状のあるものと認め、病人の手当てを怠らないようにとの注意を与えた。眠り薬を調合して届けるから、それを茶の中へ入れて本人には気づかれないように勧めて見てくれよとの言葉をも残した。ところが、かんじんの本人は一向病気だとも思っていない様子で、まるで狐《きつね》にでもつままれるような顔をしながら医師の診察を受けたということが知れわたると、村のものが騒ぎ出した。もしお師匠さまが看護のものの目を盗んで部屋《へや》から逃げ出しでもしようものなら、この先どんなむちゃをやり出すかしれたものではないと言うものがある。あの万福寺での放火の時、もしだれもお師匠さまを抱きとめるものがいな
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