にかかって、まさか彼が先祖青山道斎のこの村のために建立した由緒《ゆいしょ》の深い万福寺を焼き捨てに行くとは真《ま》に受けもしなかったが、なお二人《ふたり》してそのあとをつけた。馬籠言葉でいう小山の「そんで」(背後)まで行くと、寺道はそこで折れ曲がって、傾斜の地勢を登るようになる。蕗《ふき》の葉をかぶった半蔵の後ろ姿は、いつのまにか古い杉《すぎ》の木立ちのかげに隠れた。
 山門の前の石段を踏んで寺の境内へ出て見た時の庄助らの驚きはなかった。本堂の正面にある障子の前に立って袂《たもと》からマッチを取り出す半蔵をそこに見つけた。
「気狂《きちが》い。」
 思わず見合わせた庄助らの目がそれを言った。その時、半蔵の放った火が障子に燃え上がったので、驚きあわてた勝之助はそれを消し止めようとして急いで羽織《はおり》を脱いだ。人を呼ぶ声、手桶《ておけ》の水を運ぶ音、走り回る寺男や徒弟僧などのにわかな騒ぎの中で、半蔵はいちはやくかけ寄る庄助の手に後方《うしろ》から抱き止められていた。放火も大事には至らなかったが、半焼けになった障子は見るかげもなく破られ、本堂の前あたりは水だらけになった。この混雑が静まっ
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