屋《ささや》の庄助《しょうすけ》と小笹屋の勝之助の二人が半蔵を見かけて、声をかけた。
「おれか。おれはこれからお寺へ行くところさ。」
「お寺へなし。」
「お前さまもまた、おもしろい格好をして行かっせるなし。」
こんな言葉も半蔵と庄助らの間にかわされた。半蔵は以前の敬義学校へ児童《こども》を教えに通った時と同じような袴《はかま》を着け、村夫子《そんふうし》らしい草履《ぞうり》ばきで、それに青い蕗《ふき》の葉を頭にかぶっている。
「今、ここへ来る途中で、おれは村の子供たちにあった。その子供たちが蕗《ふき》の葉をかぶって遊んでいたんで、おれも一つもらって、頭へ載せて来たさ。」
と半蔵は至極《しごく》大まじめだ。さびしさに浮かれる風狂の士か。蓮《はす》の葉をかぶって吟じ歩いたという渡辺|方壺《ほうこ》(木曾福島の故代官山村良由が師事した人)のたぐいか。半蔵のは、そうでもなかった。そんなトボけた格好でもしなければ、寺なぞへ行かれるものではないという調子だった。庄助と勝之助とはふき出さないばかりにおかしさをこらえて、何のための万福寺訪問かと尋ねる。
「ええ、うるさく物をききたがる人たちだ。そん
前へ
次へ
全489ページ中425ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング