野長英があると指《さ》して数えることができた。攘夷《じょうい》と言い開港と言って時代の悩みを悩んで行ったそれらの諸天にかかる星も、いずれもこの国に高い運命の潜むことを信じないものはなく、一方には西洋を受けいれながら一方には西洋と戦わなかったものもない。この国維新の途上に倒れて行った幾多の惜しい犠牲者のことに想《おも》いくらべたら、彼半蔵なぞの前に横たわる困難は物の数でもなかった。彼はよく若い時分に、お民の兄の寿平次から、夢の多い人だと言ってからかわれたものだが、どうして[#「どうして」は底本では「どうし」]こんなことで夢が多いどころか、まだまだそれが足りないのだ、と彼には思われて来た。
 月も上った。虫の声は暗い谷に満ちていた。かく万《よろ》ずの物がしみとおるような力で彼の内部《なか》までもはいって来るのに、彼は五十余年の生涯をかけても、何一つ本当につかむこともできないそのおのれの愚かさ拙《つた》なさを思って、明るい月の前にしばらくしょんぼりと立ち尽くした。

       四

「お師匠さま、どちらへ。」
 そこは馬籠《まごめ》の町内から万福寺の方へ通う田圃《たんぼ》の間の寺道だ。笹
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