いらが暗くなって来るらしい――暗い、暗いッて、よくそんなことを言いましてね。」
 お民は夫の健康が気にかかるというふうに、それを三郎に言って見せた。じっと盤をにらんだ益穂の長考はまだ続いていた。そこへ月を踏んで来る人の足音がした。お民はその足音で、すぐそれが夫であることを聞き知った。師匠の帰りと聞いて、益穂も今はこれまでと、手に持つ駒《こま》を盤の上に投げてしまった。
 何げなく半蔵は隠宅に帰って来て二人の弟子にも挨拶《あいさつ》したが、心の興奮は隠せなかった。お民は夫に近く寄ってまず酒くさい息を感じた。
「お民、二階へ燈火《あかり》をつけてくれ。それから、毛氈《もうせん》を敷いてくれ。まだそんなにおそくもないんだろう。こんな晩には何か書いて遊びたい。」
 半蔵はその足で二階の梯子段《はしごだん》を登った。三郎や益穂をも呼んで、硯《すずり》筆《ふで》の類を取り出し、紙をひろげることなぞ手伝わせた。墨も二人の弟子に磨《す》らせた。
「どれ、一つ三郎さんたちにお目にかけるか。」
 と言いながら、半蔵がそこへ取り出したのは、平素めったに人にも見せたことのない壮年時代の自筆の所感だ。それは、水
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