穂とが遊びに来て、お民と共に主人の帰りを待っている。お民は古い将棋盤なぞを出して来て三郎らにあてがったので、二人の弟子《でし》は駒《こま》の勝負に余念もない。その古い将棋盤は故吉左衛門の形見として静の屋に残ッているものだ。
「さあ、早くさしたり。」
「待った。」
「いつまでそんなに考え込むんだ。」
「手には。」
「角《かく》桂《けい》に、歩《ふ》が六枚。」
下座敷の縁側に近く盤を置いて、二人の弟子はそんなことを言い合っている。しばらく縁側に出て月を見ていたお民が二人のいる方へ来て見ると、三郎は相手の長い「待った」に気を腐らして、半分ひとり言のようにお民に言った。
「お師匠さまも、あれで将棋でもなさると、いいがなあ。」
「いいがなあのようなことだ。」とお民は笑って、思わず三郎の言葉に釣《つ》り込まれながら、「ほんとに、うちは道楽というもののすくない人ですね。弓をやるじゃなし、鳥屋《とや》に凝るじゃなし、暇さえあれば机に向かって本を読んでばかり。この節は気がふさいでしかたがないと言いますから、どんなふうに気分が悪いんですかッて、わたしは聞いて見ました。なんでも、こうすわっていますと、そこ
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