つ酒を携え帰る途中でさまざまな恐ろしい思いをした。そして、家まで帰り着かないうちに、目がさめた。
 しばらく盃《さかずき》を手にしない結果が、こんな夢だ。彼の内部《なか》にはいろいろなことも起こって来るようになった。妙に気の沈む時は、部屋《へや》にある襖《ふすま》の唐草《からくさ》模様なぞの情《こころ》のないものまでが生き動く物の形に見えて来た。男女両性のあろうはずもない器物までが、どうかすると陰と陽との姿になって彼の目に映って来た。小半日暮らした。その彼が周囲を見回したころは夕方に近い。お民は本家の手伝いから帰って来て、隠宅の台所で夕飯のしたくを始める。とにもかくにも一夏の間、自ら思い立って守りつづけて来た飲酒の戒も、妙な夢を見たために捨てたくなったことを彼はお民に話し、これでは無理だと思って来たのもその夢からであったと彼女の前に白状した。その時、お民は襷《たすき》がけのまま、実はしばらく見えなかった落合の勝重《かつしげ》が最近にまた訪《たず》ねて来てくれた時に置いて行った酒のあることを夫に告げた。彼女はそれを夫に隠して置いたことをも告げた。
「ホ、落合の酒をくれたか。勝重さんはこの
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