からかすようなことを言う。ない、ないと言ったって、おれが宗太にこの家を譲る時には、七十俵の米ははいったはずだ。みんな失《な》くしてしまうのはだれだ。たわけめ。」
 かつて宗太を責めたことのない半蔵も、その時ばかりは癇癪《かんしゃく》を破裂させてしまった。ひらめき発する金色な物の象《かたち》はとらえがたい火花のように、その彼の目の前に入り乱れた。
 どうしたはずみからか、と言って見ることもできなかったが、留め役にはいったお民のさしている細い銀のかんざしが飛んで、彼女が左の眉《まゆ》の下を傷つけたのもその際である。彼女の顔からは血が流れた。何かの消えないしるしのように、小さな痣《あざ》のような黒い斑点《はんてん》が彼女の顔に残ったのも、またその際である。やがて宗太の部屋を出てからも、半蔵が興奮は容易にやまなかった。彼は自分ながら、自分とも思われないような声の出たのにもあきれた。そういう一時の憤りや悲しみの沈まって行く時を迎えて見ると、彼は子ばかりをそう責められない。十八歳の若者でしかなかった宗太に跡目相続させたほどの、古い青山の家には用のないような人間であったその彼自身のつたなさ、愚かさを
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