に飛騨《ひだ》時代以来の『常葉集《とこわしゅう》』なぞの整理を思い立った時であるが、それらの歌稿を書き改めているうちに、自分の生涯に成し就《と》げ得ないもののいかに多いかにつくづく想《おも》いいたった。傾きかけた青山の家の運命を見まもるにつけても、いつのまにか彼の心は五人の子の方へ行った。それぞれの道をたどりはじめている五人の姉弟《きょうだい》のことは絶えず彼の心にかかっていたからで。


 姉娘のお粂《くめ》がその旦那《だんな》と連れだって馬籠へ訪《たず》ねて来たのは、あれは半蔵らのまだ本家の方に暮らしていた明治十六年の夏に当たる。ちょうどお粂夫婦は東京の京橋区|鎗屋町《やりやちょう》の方にあった世帯《しょたい》を畳《たた》み、半蔵から預かった二人《ふたり》の弟たちをも東京に残して置いて、一家をあげて郷里の方へ引き揚げて来たころのことであったが、夫婦の間に生まれた二番目の女の子を供の男に背負《おぶ》わせながら妻籠《つまご》の方から着いた。お粂は旦那と同年で、年齢の相違したものが知らないような心づかいからか、二十八の年ごろの細君にしては彼女はいくらか若造りに見えた。でも、お粂はお粂らし
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