れる半蔵が生涯《しょうがい》の奥に見つけたのは、こんな位置にあるところだ。一方は馬籠裏側の細い流れに接して、そこへは鍋《なべ》を洗いに来る村の女もある。鶏の声も遠く近く聞こえて来ている。
 もし半蔵があの落合の勝重の言うように余生の送れる人であったら、いかに彼はこの閑居を楽しんだであろう。本家の方のことはもはや彼には言うにも忍びなかった。しかし隠居の身として口出しもならない。世にいう漁《ぎょ》、樵《しょう》、耕《こう》、牧《ぼく》の四隠のうち、彼のはそのいずれでもない。老い衰えて安楽に隠れ栖《す》むつもりのない彼は、寂しく、悲しく、血のわく思いで、ただただ黙然とおのれら一族の運命に対していた。これがついの栖家《すみか》か、と考えて、あたりを見回すたびに、彼は無量の感慨に打たれずにはいられなかった――たとい、お民のような多年連れ添う妻がそばにいて、共に余生を送るとしても。なんと言っても旧《ふる》い馬籠の宿場の跡には彼の少年時代からの記憶が残っている。夕方にでもなると、彼は街道に出て往来《ゆきき》の人にまじりたいと思うような時を迎えることが多かった。
 ある日の午後、彼は突然な狂気にとらえ
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