そばから離れて行った。そして、ひとりになってから言った。
「どうして、お師匠さまはまだまだ年寄りの仲間じゃない。」

       二

 静の屋は別に観山楼とも名づけてある。晴れにもよく雨にもよい恵那山《えなさん》に連なり続く山々、古代の旅人が越えて行ったという御坂《みさか》の峠などは東南にそびえて、山の静かさを愛するほどのものは楼にいながらでもそのながめに親しむことができる。緩慢《なだらか》ではあるが、しかし深い谷が楼のすぐ前にひらけていて、半蔵はそこいらを歩き回るには事を欠かなかった。清い水草の目を楽しませるものは行く先にある。日あたりのよい田圃《たんぼ》わきの土手は谷間のいたるところに彼を待っている。その谷底まで下って行けば、土地の人にしか知られていない下坂川《おりさかがわ》のような谿流《けいりゅう》が馬籠の男垂山《おたるやま》方面から音を立てて流れて来ている。さらにすこし遠く行こうとさえ思えば、谷の向こうにある林の中の深さにはいって見ることもでき、あるいは山かげを耕して住む懇意な百姓の一軒家まで歩いてそこに時を送って来ることもできる。もういい加減に、枯れてもいい年ごろだと言わ
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