られませんよ。」
 半蔵は勝重から何よりのものを贈られたというふうに座を離れて、台所の方へその土産を置きに行ったが、やがてまたニヤニヤ笑いながら勝重のいるところへ戻《もど》って来た。
 その静の屋に半蔵が二度目の春を迎えるころは、東京の平田|鉄胤《かねたね》老先生ももはやとっくに故人であった。そればかりではない、彼は中津川の友人香蔵の死をも見送った。追い追いと旧知の亡《な》くなって行くさびしさにつけても、彼は久しぶりの勝重をつかまえて、容易に放そうともしない。他に用事を兼ねて日ごろ無沙汰《ぶさた》のわびばかりに来たという勝重が師匠の顔を見るだけに満足し、落合の酒を置いて行くだけにも満足して、やがて気軽な調子で辞し去ろうとした時、半蔵はその人を屋外《そと》まで追いかけた。それほど彼は人なつかしくばかりあった。
 半蔵は勝重に言った。
「そう言えば、勝重さん、文久三年に君と二人《ふたり》で御嶽参籠《おんたけさんろう》に出かけた時さ。あれは、ちょうど今時分じゃありませんか。でも、いい陽気になって来ましたね。この谷へも、鶯《うぐいす》が来るようになりましたよ。」
 こんな声を聞いて勝重は師匠の
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